【あの頃イタリアで その16 イタリア人と謎の白い物体】

投稿者 :佐々木英理子 on

こんには。関東は梅雨の晴れ間の土曜日。皆さんいかがお過ごしですか?私は先日ポルトガルからやって来たカラパウの動物たち御一行様、大小30匹の身体検査を終え、やっと一息つきながらデスクに付いたところです。

さてさて早速1994年のミラノにタイムスリップしましょうか・・

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短い夏休みも終わり、また語学講座が始まった。クラスでは相変わらず落ちこぼれの私であったがそんな学校生活とは裏腹に、ミラノでの生活は充実していた。この時代はスマホもパソコンも一般的では無かったため今に比べて圧倒的に情報量が少なかったのだが、私の横には今で言う”Siri”のように何でも答えてくれるミラノ在住10年の良美さんがいたのである。

「ヘイSiri、ミラノではどの美容室に行けばいいの?」「ヘイSiri、ここから一番近い日本食レストランはどこ?」時にはSiriだったら絶対言わないような厳しい言葉が返ってくるが、分からないことはほぼ全て教えてくれた。この後始まるデザイン学校の課題に行き詰まり、解説文のイタリア語訳をまるごとお願いしたことがあるが、このときも「これ全部なの?!あ~面倒臭い!何なのよ一体!」と文句を言いつつ、結局は最後までやってくれた。本人はクールでサバサバした女性を装っているが、どうしても節々に情の深さが滲み出てしまうのが良美さんの良いところだ。

イタリアでの食事にも慣れ、オリーブオイルに塩、コショウさえあればほぼ何でも食べることができると知ったが、やはり私は日本人、ある日どうしてもブルドックソース味が恋しくなってしまい、良美さんにお願いしてミラノでは数少ない日本食材店に連れて行ってもらえることになった。と言ってもその当時のミラノには日本食材を専門に扱っているお店は無く、中華食材店の片隅に陳列棚一列分だけ日本食材が置いてあるといった感じなのだがミラノに暮らす日本人にとってはとても貴重な存在である。

私たちのアパートメントからトラムで7つ目の駅Moscova(モスコーバ)の周辺は中華食材店の他、小物屋さんやアンティーク雑貨店などのお洒落なお店が点在している魅力的なエリアであるが、その時の私はそんな物には目もくれず、目指すはブルドックソースなのである。久しぶりに視界一杯に広がる日本語のラベルにテンションが上がり、その他にも醤油や酢、味噌などの調味料をかごに投入。そしていざお会計というとき、レジ脇に並ぶ見覚えのある野菜を発見し、二人同時に叫んだ。「あ!大根だ!」迷わず購入。良美さん曰く、大根はミラノでは滅多に見かけることがないとのこと。

思わぬ獲物をゲットし、私たちは笑顔で帰りのトラムに乗り込みシートに腰かけ、重い買い物袋を膝に乗せた。・・・と、その瞬間、何だか物凄い視線を感じる。向かい側のシートに横並びに座っている45人のイタリア人が何やら一点に釘付けになっているのだ。イタリアの人々は日本人とは違って、じっと見ることを失礼とは思わない。興味があるものは気が済むまでとことん観察するのだ。

“え?何見てるの?”と不思議に思い、点点点とその視線の先を辿ってみる・・と、どうやらそれは膝の上の買い物袋から逆さになってはみ出した大根に辿り着くようだ。つるつるで真っ白な大根の先っぽからは10㎝ほどの根がひゅるんと伸びている。“これ見てるのかなー?”試しに買い物袋を軽く揺すって見た。大根の根が不規則に揺れる。そしてイタリア人一同更に目を見開く。”なに?食べ物?生きてるの??”と言った形相である。見たことのない物体に興味津々なのだ。そこでちょっと面白くなってしまい悪戯をしてみた。「よ~しよしよし」と言いながら動物を愛でるように大根の先っぽを優しく撫でてみる。と、一同前のめりになって目玉がこぼれんばかりだ。その様子は横一列に並んだ子猫たちが一斉に獲物を目で追うようで何ともユニークで可愛い。さて次はどうしようかなと思った瞬間、大根に伸ばした私の手を良美さんが横からペシッとはたいた。「ちょっと!恥ずかしいから止めて!」それにびっくりしたイタリア人一同は一斉に呪縛が解かれたかのようにあちこちに視線を散らした。

 

その後、あのイタリア人たちはつるつるした白い物体の正体を知ることができたのだろうか。大根は日本食として有名なお寿司にも天ぷらにも登場しないので、もしかしたら今だ謎のままかも知れない。30年近く経った今でも、買い物袋に逆さに入った大根を見る度に“フフフ”と微笑んでしまう私である。

 

つづく・・・

※この思い出話の舞台は1994年-1996年のイタリアです。スマホはおろか携帯電話やデジカメ、パソコンすら一般家庭に無い時代であり、主な通信手段は国際電話かFAXでした。

 

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