【あの頃イタリアで その49 オペラ座のマエストロも男ですから】

投稿者 :佐々木英理子 on

こんにちは。東京は一足早く桜が綺麗ですね~!先日友人たちと訪れた代々木公園は花吹雪が見事でしたが、ここ調布市は本日ようやく満開といったところです。

さて、あの頃の私はちょっと特殊な、新しい友人に出会います・・・

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19957月のとある月曜日、私はミラノの移民局(クエストゥーラ)の待合室にいた。

外国人が3ヵ月以上イタリアに滞在するために必要な滞在許可証は1年ごとに更新手続きが必要であるため、イタリアに来てからほぼ1年目のこの日、私は窓口の側のベンチで日本から持ってきた文庫本を読みながら、手続きの順番を待っていたのである。

当時のメモには「蔵」を読んでいたとある。言わずと知れた宮尾登美子さんの名作長編小説なのだが、なぜにミラノで「蔵」?そのチョイス心理は本人も不明。

そのときは移民局に来た目的も忘れるほど読書に没頭していたのだと思う。突然横から声がした。

「あの、日本の方ですよね?」

びっくりして顔を上げるとあら美人!そこにいたのは日本人のわりには(90年代基準です)長身でスタイルが良く、目鼻立ちがはっきりした華やかな女性。

「日本語の本読んでるし・・・絶対日本人だと思って!」

きっと、“日本語の本読んでるし、平べったい顔してるし“と言いたかったに違いない、とやや卑屈になる。

彼女はそんな私をよそに、物凄く親しげに一人でしゃべりまくりながら私の横に腰掛けた。なんとなく得体のしれない違和感を覚え、ふと彼女がやって来た方に目をやると、恨めしそうにジーっとこちらを見つめたまま立ち尽くす若いイタリア男が1人。

私の目線に気付いた彼女は、声のトーンを変えずにこう続けた。

「も~!あの男!さっきからしつこいのよ!ずっとくっついて来るの!だからあなたを見つけたとき、 “友達と待ち合わせしてるの! ”って嘘ついちゃったわけ。ごめんないさいね!このまま話してていい?」

・・・突然降って湧いた配役に不満は残るが、さして断る理由もない。

それから30分以上話し込んだだろうか。いつのまにかイタリア男はいなくなっていた。そして、知り合ったきっかけはどうであれ、私たちは妙に意気投合し、本当に友達同士になってしまっていたのである。

彼女の名前は飯島麻衣(仮名)。オペラ歌手を目指し、私と同じく1年前にミラノにやって来た。綺麗にカールされたロングヘアとは裏腹に、性格はサバサバして男前。そして、マジマジと至近距離で眺めると更に際立つその美貌!イタリア男が放っておくわけがない。

その日はお互い予定があったのでそのまま別れたが、その後何度も彼女の住むアパートで食事をご馳走になりながらおしゃべりをした。

そのアパートは音楽関係者専用であったので、楽器の演奏が許されていた。麻衣ちゃんはピアノを弾きながら歌ってくれたことがあったが、オペラのうんぬんを知らない私は “流石!” としか誉め言葉が見つからない。だけど彼女の歌声は本当に流石なのである。

そんなある日、麻衣ちゃんが私にお願いがあると言う。その内容がすごい。

「あのね、この間電車の中でご年配の男性に声掛けられたの。“あなたオペラ歌うでしょう?”って突然言うから “歌います” と答えたの。そのおじさん、喉を見ると歌い手かどうかが分かるんだって!それでね、”ミラノのオペラ座でマエストロ(指揮者)をしているから、良かったらうちにプライベートレッスンしに来ないか? ” って言うのよ~」

「え~?!なんか嘘のような話~!もしかしてまたナンパ?!」

「ま~そうなんだけど、その後その人のこと色々調べてみたら、本当にオペラ座の有名なマエストロだったのよ!いいチャンスだからレッスンに行ってみようと思うの。それでね~・・いくらご年配と言えども心配だから、えりちゃんも一緒に来てくれない?お願い!」

どうも彼女といると私の役割はこうなってしまうらしい。・・が、断る理由もない。

そしてプライベートレッスン当日。年甲斐もなく弾けるような笑顔で大邸宅の扉を開けたオペラ座のマエストロ。私の存在を確認したときのあのにがにがしい顔は一生忘れない。

とは言え本物のマエストロである。いざグランドピアノに向かうと顔つきが変わった。その横にスッと背筋を伸ばして立ち、堂々と歌い上げる美しい麻衣ちゃん!なんだか物凄く貴重なものを目の当たりにしている気がする!

オペラ座さながら、アンティークなインテリアで飾られたレッスン場に響き渡る「ラ・ボエーム - 私の名はミミ(第1幕)~プッチーニ」この世のモノとは思えません!!

ピアノから少し離れた場所に居場所を与えられ、椅子にちょこんと腰掛ける私だけがしっかりとこの世のものでしたけど(笑)どう見ても場違いでした。

 

つづく・・・。

 

※このお話はノンフィクションですが、登場人物の名前は仮名です。(たま~に本名あり)
※この思い出話の舞台は1994年-1996年のイタリアです。スマホはおろか携帯電話やデジカメ、パソコンすら一般家庭に無い時代であり、主な通信手段は国際電話かFAXでした。
 

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