【あの頃イタリアで その52 シチリア海底にキツネ目の女現る その2】

【あの頃イタリアで その52 シチリア海底にキツネ目の女現る その2】

こんにちは!今日の関東は気持ちの良い夏日です。窓の外に見える大通りはピンクとホワイトのハナミズミが満開で、一気に華やかな雰囲気になりました。お出掛け日和ですね!私も午後から美味しいビールを求めて出かける予定です!

さて、海底でキツネ目になってしまった私のその後をどうぞ・・・

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シチリアの海底で、突如マスクが吸盤のように顔に貼り付いてしまった私はパニック寸前!何とか冷静になろうと、ギリギリのところであがいていた。

スキューバダイビング経験がある方は既にお分かりかと思うが、ダイビング経験が浅い上に一年振りに海に潜ることになった私は、耳抜き(鼓膜の内側と外側の圧力を調整するため、鼻を摘み、口を閉じた状態で、鼻から空気をはき出すようにして耳へ空気を送る方法)ばかり気に掛けてマスクの上から鼻を摘まみっぱなしで潜行してしまったためマスク内の気圧の調整ができず、その結果、マスク内の気圧が下がり、大きな吸盤のように顔に貼り付いてしまったのである。

大袈裟ではなく、本当に視界が無くなるほど目が左右に引っ張られていく。

“もう前が見えない!進めない!” と思ったその時、背中を向けて泳いでいたインストラクターのマッシモが、ようやく私の異変に気付き、水を蹴って折り返して来た。 “どうしたの?”という手振りをするマッシモにジェスチャーで伝えようと必死に試みたが、それよりも早くマッシモが異常なまでの私のキツネ目に気付いた。

“マスクの下側を顔から引き剥がせ!”マッシモが何度もジェスチャーをして見せる。ダイビング経験が浅い私にとって、海底でマスクを外すのは物凄く怖い・・・が、そんなことを言っている場合ではない。

言われた通りマスクの上側を抑え、下側を顔からグイっと引き剥がす・・・と、いきなり海水がドドドっとマスクの中に流れ込んできた!あっという間に目と鼻が海水にさらされ、またまたプチパニックになる! 慌てふためくも、死にたくないという思いだけで正気を保ちながら、必死で口にくわえたレギュレーターから酸素を吸っては鼻息で海水をマスクの外に押し出す作業を繰り返す。間違えて鼻から海水を吸ってしまったら・・・おしまいだ。

物凄く長い時間が経過したような気がするが、恐らく30秒くらいのことだったのだろう。ようやくマスクの中の海水を外に出し切ることができた。そしてキツネ目も解消された。それを見ていたマッシモは “OKOK!それでいい!上手上手!”と手で合図をすると、そのまま何事も無かったかのように背中を向けて先へ行ってしまった。

私にはその後の海底での記憶が欠落している。ウスティカの海底はきっと美しかったに違いないのだが、“助かった・・・”という安堵感で放心状態になり、ただただ海底を漂うクラゲ状態であったに違いない。

長い海底散策が終わり、ようやく海面に浮上した私はボロ雑巾のようであった。

「どうだった?!楽しかったか?!」と問いかけるヌッチョに目もくれず、無言のままヨタヨタと船に上がって地獄のように思い酸素ボンベを下ろし、機材一式を体から外すと、釣り上げられたマグロのように甲板の上に転がった。その横でヌッチョが待ってましたとばかりに、水筒からカップにエスプレッソを注ぎ、私に飲めと差し出す。全く気が進まなかったが、せっかくなので頑張って口を付けてみる。やはり喉を通らない。

そこへニコニコ顔でマッシモがやって来た。

「お疲れ様!楽しかった?」私がパニックになりかけたことなど、これっぽっちも気にしていない様子だ。

「う、う、うん・・た、た、楽しかった・・ありがとう。」甲板から体を起こし、なんとかお礼を言ってみる。

「ところで、今日は何メートル潜ったか知ってる?」ニヤニヤしながらマッシモが私に聞く。と言われても、私には深度計を見る余裕など無かったのだから知る由もない。首を横に振る。するとマッシモはいたずらっ子のような顔をしてこう言い放った。

「実はね・・・35mも潜ったんだよ!!」・・・え?聞き間違いかと思ってもう一度聞き返してみる。それでも、何度聞いても35mだというのだ!

私が持っているオープンウォーター(一般的なスキューバダイビングライセンス)では、最高潜水深度は18mまでしか許されていない。35mといったらオープンウォーターの上の、そのまた上の技術を身に着けたプロ級の人間のみが許される深度である!

マッシモとしては遠い異国の地から来たであろう私に、出血大サービスをしてくれたつもりなのだろうが・・・私にしてみれば・・ “なんてこった!” としか言いようがない。

もしあの時パニックを起こし、海底35mから海面まで急浮上していたら・・・今頃、命はなかったかも・・・ね・・・。血の気はとっくに引いていたが、更にどんどん、どんどん引いて行く。マッシモが笑顔でその場を去った後、とうとう私は気分が悪くなり、本格的に甲板に横たわってしまった。

 

つづく・・・

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