【あの頃イタリアで その45 マジックミラーの裏で蠢く怪しい面々①】

投稿者 :佐々木英理子 on

 こんにちは。今日の東京は春のような陽気でした。嬉しいけど花粉が・・・だけどやっぱり嬉しい!・・・だけどだけどやっぱり花粉が・・・と嘆きつつも、やっと来た春を満喫するべく、久々にジョギングしてみました。

さて、今日のあの頃は、前回(その44)に続き、やむを得ず働くことになってしまった怪しいお店のお話・・・ 

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人気のない通りに佇む全窓ミラー張のお店。もちろん中の様子は全く見えない。何度も住所と名前を確認してみる。間違いであって欲しいという願いも虚しく、どうやらここが目的地であるらしかった。

”辿り着けなかったことにしてこのまま帰ろうか” という考えが一瞬脳裏をよぎる。しかしそれを打ち消すように「もう仕送りができないんだよ~」と母の声が聞こえる。

“どうしよう・・どうする?・・・え~い、押してしまえ!!” 私は意を決して呼び鈴を押した。

「は~い!」日本語だ。

「あの~紹介で来ました!エリコです。」

「どうぞ~入ってくださ~い。」若そうな女性の声と共に、ビーっという音がして重厚なドアのロックが解除された。恐る恐るドアを開けてみる。

すると・・・“え?・・・え~~!!!”思わず声が出そうになった。なんとそこには高級ブティックさながらのきらびやかな広い空間が広がっていた!イタリアの高級ブランド品とミラノの有名サッカーチームのユニフォームやピノキオの人形が、スポットライトを浴びながら整然とショーケースに並んでいる。外観からは全く想像ができなかったが、そこは紛れもなく高級イタリア土産店(?)なのであった。

まさかこんなところにこんな空間が存在するとはご近所の人たちでさえ気づかないであろう。ふと後ろを振り向くと、ミラー張の窓はマジックミラーになっていて、中からは外の様子が良く見える。なんかやっぱり怪しい・・・。

と、奥から20代中頃と思われる年の割にはお腹が出っ張ったイタリア人男性と、これまた同じ年頃のスタイル抜群の日本人女性が出て来た。二人に案内され、店内のソファに腰を下ろす。

流暢な日本語を話すイタリア人男性の名はアルベルト。日本人女性の名は純子さん。アルベルトがこの店の店長で、純子さんは店員だと自己紹介されるものの、話し終わる度に絡み合う二人の熱い視線から、誰がどう見たってこの二人はできていると気付く。実に分かりやすい(笑)

一通り店内を案内された後、詳しい仕事の内容は明日の開店後に実践の中で覚えてもらうとのことなので、どうやら面接は受かったようだった。(そもそも面接だったのか?)

帰ってから早速良美さんに報告をした。

「明日から働くことになったよ~」

「ホント!良かったじゃん!」

「うん、良かったんだけどね・・」嬉しそうな良美さんを余所に、説明しがたい”怪しさ”を本能的に感じ取っていた私は、どうもモヤモヤが消えない。

翌朝940分。相変わらず店の周りには人っ子一人いない。お店の中に入ると、アルベルトと純子さんの他に、私を含めて5人もの日本人店員がいた。私以外は全員20代半ばに見える。久し振りにたくさんの日本人に囲まれて、一先ずホッとする。

その中でひときわ華奢で性格が明るそうな由美子さんという女性が新人の指導役らしく、私は終日彼女の元で実践的研修をすることになった。開店は10時だが、その前に掃除やお客様用休憩室の準備など、お店が広いのでやるべきことは多い。短いミーティングが終わるとみんなキビキビと動き出した。

お店の構造は1階と地下1階の2階建て。1階はお店で、地下はお客様用トイレと休憩室になっている。まずは由美子さんに言われた通り一緒に地下に降り、休憩室の準備をする。

言われるままに休憩用ソファの横にある小型冷蔵庫の扉を開け、お客様用に用意されたのであろう2L入りのミネラルウォーター約10本全てを取り出し、トイレの側の給湯室に向かった。

これまた言われるままにペットボトルの中の飲み残しを全てシンクに捨てる。さて、ペットボトルはどこに捨てるのかな~とキョロキョロしていた私は、次の瞬間我が目を疑った。なんと!由美子さんがそのペットボトルにおもむろに水道水を入れ出したのである!

「え?!水道水でいいんですか?!」思わず声が出た。

「いいのいいの!自分が飲むわけじゃないし。キャップすると新品に見えるから!」と言いながら由美子さんは水道水で満タンになったボトルのキャップを閉める。

「ほらね!全然分からないでしょ!」・・・屈託のない笑顔だ。

このお店・・・やっぱり普通じゃない。

 

つづく・・・

※このお話はノンフィクションですが、登場人物の名前は仮名です。(たま~に本名あり)
※この思い出話の舞台は1994年-1996年のイタリアです。スマホはおろか携帯電話やデジカメ、パソコンすら一般家庭に無い時代であり、主な通信手段は国際電話かFAXでした。
 

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