【あの頃イタリアで その74  見てしまったのヴィーナス】

【あの頃イタリアで その74 見てしまったのヴィーナス】

こんにちは。すっかり隔週更新になってきた感のあるイタリアブログですが、見捨てずにお付き合いいただきましてありがとうございます!思い出話が進むに連れ、当時のスケジュール帳が残り少なくなって来ていることに気付き、ちょっと寂しい気がする今日この頃です。

さて、今日はアルバイト先で起きたちょっと恥ずかしいハプニングをどうぞ・・・

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ミラノにいつも通りの朝が来た。今日は午前中にナビリオ沿いのピエラの設計事務所でアルバイト。午後からは学校で卒業設計のグループ作業をする予定である。

“例の模型作りの一件”以来、いまだクビにならずにアルバイトを続けていられるのは、ピエラが同居人の良美さんの友人だからなのかも知れないが、少しは私の頑張りを認めてもらえている気がしないでもない。(自信なさ気 笑)

事務所のボスであるピエラは相変わらずオフィスにいることが少なかったが、以前のように外部での打ち合わせに出掛けているわけではなく、なんと、40代にして待望の我が子を授かり(もちろん夫であるカナダ人、ダッグの子供である)この頃は随分とお腹が大きくなっていたため、自宅で仕事をするようになっていたのだ。

というわけで、この日もオフィスには神経質なダッグと私の二人きり。アルバイトを始めたばかりの頃はこの状況に、幾度となく胃が痛くなるような思いをしたが、今ではダッグもだいぶ私に心を開いてくれるようになっていた。

「そうだ!エリコ、君が作ってくれた模型の別荘の工事がだいぶ進んできたよ!先週末、ピエラとトスカーナに行って現場の写真を撮って来たんだ。見るかい?」

「見たい見たい!もちろん見たい!」

私の反応に気を良くしたダッグは嬉しそうに床に置いていた大きなカバンをゴソゴソとまさぐり、50枚ほどの写真の束をワシ掴みにして無造作に差し出した。封筒にも入っていないバラバラな写真。仕事では恐ろしいほど神経質なのに、写真の整理は苦手なようだ。

上下逆さになった写真を直しながら一枚一枚めくって行く。数カ月前に設計図を元に発泡スチロールを駆使して作り上げた模型が、原寸大で出来上がって行く様子を見るのは格別に楽しかった。

「うわ~!これは苦労して作ったあのプールだよね!ここは玄関だね!」

興奮しながらどんどん写真をめくっていた、その時である。

「あ・・・・」一枚の写真を手に、固まる私。それを横から覗き込み、慌てふためくダッグ。だってそこには全裸のピエラが写っていたのだから!笑

大きなお腹を見せるように横向きにカメラの前に立ち、両手でお腹を抱えながら幸せそうに微笑むピエラはヴィーナスの如く美しく、芸術的にすら見えた。慌てたダッグが横からその写真を奪い取るも、その下にはまた別の角度で撮ったピエラのヌード。ダッグは喜劇的に狼狽している。

「大丈夫だよ!これはアートだね!ピエラ綺麗だよ!」必死にフォローするも、“しまった~!写真を整理しておけばよかった!”と痛烈に思ったであろうダッグの後悔の念は拭い切れなかったようで・・その日は気まずい雰囲気のまま、オフィスを後にした。

トラムを二つ乗り継ぎ学校に到着すると、校門の斜め向かいにあるバールのガラス窓越しにマルコの姿が見えた。お子ちゃま的偏食少年のマルコが食べるものはいつも決まっている。ハムとモッツアレラチーズをカリカリの薄いパン生地でサンドしたピアディーナ(ロマーニャ地方の郷土料理)。飽きもせず、学校がある日は毎日こればっかり食べている。

ガラス窓にビッタリ張り付いて観察している私に気付いたマルコが、ピアディーナに齧り付いたまま手招きをする。昼ごはんを済ませていなかった私はマルコの向かいの席に座り、ルッコラがたっぷり入ったピアディーナを注文。無言のまま齧り付いていると、一足先に食べ終えたマルコがナプキンで口を拭いながらこんなことを言う。

「なあ、オレずっと考えてたんだけど。この間のメンバーで卒業旅行に行かないか?」イタリアの卒業式は6月。そして今はもう3月。そんなに先の話ではない。

「へ?!いいじゃんそれ!行こうよ!・・で、今度はどこに行くつもり?」

「へへへ、オレにいい考えがあるんだ!」何かワクワクすることを企んでいるとき、マルコの黒くて丸い目は一段と丸くなる。

今思えば、これが後に4人の友情に大波乱を巻き起こす“スタンドバイミー的自転車旅行”の始まりの始まりであったのだ。

 

つづく・・・。

 

※この思い出話の舞台は1994年-1996年のイタリアです。スマホはおろか携帯電話やデジカメ、パソコンすら一般家庭に無い時代であり、主な通信手段は国際電話かFAXでした。

 

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