【あの頃イタリアで その64 ”ちゃんとした”アルバイトなのですが②】

【あの頃イタリアで その64 ”ちゃんとした”アルバイトなのですが②】

こんにちは。まだまだ残暑が厳しいですね~!私はようやくMakuakeプロジェクトの発送を完了して一息ついているところです。

昨日美容室に行ったのですが、美容師さんに「なんか、肩バンバンですね!なんかスポーツやられてます?」と言われてしまいました。梱包作業が原因かと思われます!(笑)

さて、今日のあの頃は、いよいよ第二のアルバイト、初日です。

新しいアルバイトシリーズ①はこちらから

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面接の翌日、私は午前の授業を終えるとクラスメートのマルコとミレーナからのランチの誘いを体よく断り、真っすぐにアルバイトに向かった。なんてったって今日からミラノの設計事務所で働くのである。かなり緊張するが、ちょっとだけ誇らしくもある。

学校近くの停留所からトラムを乗り継ぎ、設計事務所が入っているビルに着くと昨日と同じく1階エントランスのインターホンを押した。

「は~い、どうぞ~」ピエラの神経質なご主人、ダッグの声だ。声の抑揚は昨日と変わらず、ぶっきらぼうな感じがインターホンから伝わって来る。

4階にあるオフィスのドアは鍵が開いている。開けるとすぐに奥の方から声がした。

「こっちこっち。こっちに来て。」こっちを3回連呼する辺り、神経質なだけでなくせっかちでもあるようだ。言われたままに廊下右手、キッチンの奥にあるダッグの部屋に向かった。部屋に入ると目の前のデスクの上にA1サイズの大きな図面が広げられている。

「これが今取り組んでいるプロジェクトだ。」どれどれと覗いて見ると、広い敷地の中にポツンと一軒家が建っている。縮尺100分1の図面に描かれた等高線からすると敷地の高台に家があり、そこから見下ろすように広い庭が広がっているようだ。家のすぐ下には大きなプール、そのまた下側にはぶどう棚が書き込まれている。

「すご~い!これは別荘?」

「ああそうだ。」

「どこの別荘?」

「トスカーナ。ピエラのご両親の別荘だ。」

「そうなんだ!すごいね!」イタリア語のストックが少ないので“すごい”を連発する。

「そこでだ。君にはこの模型を作ってもらいたい。」ニコリともせずに彼は言う。

“・・・え~!?模型?建築模型なんてまともに作ったことないんですけど!” と思ったが、とりあえず微笑んでみる。するとダッグがデスクの後ろから何やらゴソゴソと大きな物体を取り出して来た。

「これで作ってくれ。」目の前に差し出されたのはミカン箱サイズ以上はあろうかと思われるの巨大な発泡スチロールの塊。

「・・・・。」

無言で立ち尽くす私には目もくれず、ダッグは無表情のまま塊を手に玄関横の作業室に向かう。私も後を追う。初めて入る作業室。中に入ると大きな作業台の上にごちゃごちゃといろいろな道具がおかれていて、その真ん中に不思議なマシンが見える。大きなコの字型のマシンの、上を向いたコの字の隙間を繋ぐように細い針金が張ってある。

も、も、もしやこれは!小学生の頃、発泡スチロールを切って遊んだやつ!そう、科学と学習の付録に付いてきた発泡スチロールカッターの巨大版だ!                                                  

「まずこれで丘の斜面を切り出してくれ。そこに建物とプールを設置してもらうから。」

そう言い残すとダッグは私にその塊と図面をドッカと手渡し、とっとと自分のオフィスに戻って行ってしまった。

“・・・。物凄~く簡単そうに言ったけど・・・どうすんのこれ?”しばし発泡スチロールを抱えて立ち尽くす。

そしてしばらく考えた後、尚思った。“これって・・絶対簡単じゃあないよね・・・。”

丘の斜面は直線ではない。なだらかなところと急斜面が入り混じってカーブを描いている。しかも、奥の間ではせっかちそうなダッグが貧乏ゆすりをしながら、出来上がるのを今か今かと待っているに違いない。外は木枯らしが吹いているというのに、私の額からはドッと汗が噴き出すのであった。

 

つづく・・・。

※この思い出話の舞台は1994年-1996年のイタリアです。スマホはおろか携帯電話やデジカメ、パソコンすら一般家庭に無い時代であり、主な通信手段は国際電話かFAXでした。

 

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